創造する玩具


primitive forms in the mind

音をパーツに分解する 〜 音律の冒険 〜

解説

2008.09.04

音楽のパーツは、音律から作られる。

いまでこそ音律といえば12平均律(※1)が一般的だが、もとは純正律(※2)による試みから始まった。純正律は音の周波数を<簡単な>整数比(2:3、3:4、など)で配分するが、そうした方が音を同時に鳴らしたときに気持ちよく感じられるからだ(※3)。

でも純正律では、組織だった音律を作れない……音律の基本単位はオクターブ(周波数が1:2の関係になる音。たとえばドから次のド)と考えられるが、オクターブを等分しようとすれば、おのずと等比数列になる。でも整数比に重きをおく純正律は、等比数列とは相容れない……原理的にムリがあるのだ。

しかたがないので、厳密な整数比は犠牲にし、純正律にほどほど合うオクターブの等分分割が図られた。オクターブを平等にいくつに分ければ、[1]純正律に近似し[2]音列の数が多すぎず/少なすぎないか、という基準でその分割数を探っていった結果、妥当と考えられたのがN=12。それで12平均律が採用され、いまにいたっている(※4)。

ただ音律をつくる試みは、よい響きと悪い響きのトレードオフだ。純正律に則って整数比だけで音列をつくろうとしても、その比が<複雑>になればなるほど、和音は<汚く>なっていく。純正律ですら<どこまで和音の汚さを許せるか>という試みなのだ。いっぽう平均律は無理数比だから、その和音はもともと<汚い>。でもヒトの認知の甘さ(分解能の精度の低さ)のおかげで、許容範囲にある<よい>音の組み合わせは、N等分平均律にいくつも存在する可能性がある(じっさい12平均律で、古典音楽をほぼ違和感なく演奏できている)。

ある音律がよく/ある音律が悪い、という線引きは、音楽を貧弱にするだけだ。音の組織化などにこだわらず良い響きだけを求める音楽があってもいいし、あるいは、N等分平均律のうなりだらけの和音からさまざまな感覚を引き出す音楽もあっていい(※5)。

※1
オクターブを12等分したもの。等比数列となる(等分するのに2の12乗根を使う)。
※2
音列の比を整数比となるようにしたもの。ただし音列をオクターブ内に収めるために、その妥協案の数だけ純正律がある。
※3
なぜ<簡単な>整数比が気持ちよく感じられるのか、確実な答えはない。ただ、次の回答は興味ぶかい:
純音どうしの不協和は周波数差に依る[→ http://www25.tok ...
※4
たとえば53平均律の方がよりよく純正律に近似する。ただそんな音列からなる楽器を人は扱えないし、その音程を聞き取るのも難しい。
※5
たとえば17平均律も、<よい>響きと<悪い>響きがほどよく混合しているので、世俗の音楽に使えるかもしれない。逆に、16平均律はすべての和音が平等に<汚い>から(和音の響きの差が平坦)、これまでにない音楽を体験できる:
17/16平均律の試み[→ http://www25.tok ...